投資で日々の値動きに振り回されないためには、相場全体のムードにも影響を及ぼす可能性がある「政治リスク」を把握しておくことも重要です。
そこで今回は、イアン・ブレマー氏が代表を務めるコンサルティング会社・ユーラシアグループが発表した「2021年のリスクTOP10」を見ていきたいと思います(本文は筆者のまとめと所感です。同グループによる詳細な解説は下記URLを参照ください)。
2020年のTOP10リスク
ユーラシアグループは2011年に、リーダー不在の世界「Gゼロ」の概念を提唱しました。それから10年、世界情勢はまさにGゼロの混沌に包まれていることからも、彼らの先見性がお分かりいただけるかと思います。
そんなユーラシアグループによる2020年のTOP10リスクは、以下のようなランキングでした。
1) 「不正だ!」誰が米国を統治する?(米大統領選)
2) 大いなるデカップリング(経済・技術面での米中対立)
3) 米中関係
4) 多国籍企業は救いにならない
5) モディ化されたインド
6) 欧州の地政学
7) 気候変動に関する政治と経済の対立
8) シーア派の台頭
9) ラテンアメリカの不満
10) トルコ
この年、ユーラシアグループは初めて米国の国内政治を最大のリスクとしましたが、その後に勃発したコロナ禍を除けば、確かに大統領選をめぐる数々の“事件”は今後の世界情勢にも影響する特大級の出来事だったといえるでしょう。
ということで、今後のマーケット見通しにも影響を及ぼすであろう「2021年版のTOP10リスク」を見ていきたいと思います。
1位:#46

最大のリスクは引き続き米国がらみ。
タイトルは「第46代大統領」、つまりジョー・バイデン氏のことを指しています。
大統領戦は史上最多の得票で“勝利”を納めましたが、依然としてバイデン氏を正当な大統領と認めていない人も多く、米国の分断は深刻さを増しています。
民主党は上院・下院とも過半数を占める「トリプルブルー」を達成していますが、ここまで世論が二分されていると、思い通りに政策を実現させることは困難です。
加えて、バイデン政権は一期で終わると考える人が圧倒的。外交面でも米国の影響力の低下が不安視されています。
2位:コロナ後遺症
ポスト・コロナの時代でユーラシアグループが懸念している点は、パンデミックの収束と並行して起こる世界の二極化です。
日本も他人事ではありませんが、自前のワクチンを持たない国は復興へのスタートが大きく遅れます。ワクチンの遅れは主に新興国で起こりますが、これは同時に債務危機の引き金になり、そうなると先進国の経済も足を引っ張られることになります。
2020年は世界全体で大規模金融緩和と財政出動が行われ、市場のクラッシュは避けることができましたが、結果として一部の富裕層をリッチにさせただけで、早くも「副作用」が噴出してくるかもしれません。
3位:気候問題:ネットゼロとGゼロの交差
米国のパリ協定復帰(予定)などで気候変動問題には一定の明るい兆しが見えてきたものの、ユーラシアグループは今年のリスク第3位にピックアップしています。
彼らはCO2対策を世界協調の証ではなく、5Gをめぐる欧米と中国の争いのような新しい分断を招く可能性があるテーマとして捉えています。
日本の環境問題は“ポエムの人”がトップなので情勢が見えにくいですが、実はリスクの火種であることを知っておくと、今後の関連ニュースの見方が変わりそうです。
ちなみのこの「ネットゼロ」とは、温室効果ガスの排出を実質ゼロにしようという取り組みのことです。
4位:米中の緊張は拡大する
第2位のワクチン外交や第3位のグリーンテクノロジー競争を背景に、「トランプ後の世界」でも米中のつばぜり合いは続く見込みです。
貿易戦争や人権、テクノロジー、南シナ海などなどトランプ政権時代に噴出した諸問題は完全にバイデン政権に持ち越し。バイデン次期大統領が米国内の“再統一”に腐心している間に中国が更なるパワーをつけていくと、解決はより難しくなること必至です。
5位:グローバルデータの因果応報
「ビッグデータ」が昔の言葉に感じられるほど、現在のビジネスはデータの活用が当たり前になっています。ところがオープンなデータ利用という環境は岐路に立たされていて、米国とEUの間ですらギャップが生じています。
各国がデータの“保護主義”に走るようになるとイノベーションは阻害され、ここ数年の世界経済をリードしてきたテクノロジー関連産業の成長にもかげりが見えてくるかもしれません。
6位:サイバースペースの転換点
「●●に深刻な脆弱性が見つかる」「●●から●万人分の個人情報流出」
こんなニュースが見慣れてしまうほど、最近のサイバーセキュリティ界は攻撃に対してもろさが増しています。
いち個人ならまだマシですが(良くはないですが)、ユーラシアグループは安全保障に関わるサイバーセキュリティ上の脅威をかつてないほど深刻に受け止めているようです。
特に量子コンピュータの誕生は既存の暗号化技術を無効化する懸念があり、その開発競争の行方を大きなリスク要因として挙げています。
7位:孤立無援のトルコ
昨年10位のトルコ情勢が、今回は3つ順位を上げてランクイン。
トルコ経済の苦境とともに、エルドアン大統領の理解者?だったトランプ氏の敗北、そしてEUでの仲裁役を務めてきたドイツ首相・メルケル氏の退任によって「友人」が去った今年、トルコの予期せぬ暴発が起きる可能性があるとのことです。
8位:中東:原油価格の低迷が打撃をもたらす
最近ではやや価格は持ち直していますが、原油価格の安定は中東地域の生命線。
エネルギー需要の低下が続けば、またしても中東が世界の火薬庫になるリスクが頭をもたげてきます。
9位:メルケル後の欧州
ドイツのメルケル氏が今年秋、任期満了に伴い首相の座から下りる予定です。15年にわたってEUをまとめてきたメルケル氏を失うダメージは大きく、域内の分裂が表面化する可能性があります。
また、このところEUが親中寄りの姿勢を見せつつあるなか、新首相候補の対中政策も注目されます。
10位:混迷が続く中南米
コロナ禍で中東に次ぐ「負け組」とされている中南米。
複数の国で予定されている選挙を契機に、地域が不安定化するリスクがあるとしています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
ユーラシアグループによると、2021年現在は「世界は何世代にもわたり、かつて経験したことのないレベルの最悪な危機のただ中にいる」と警鐘を鳴らしています。
ただ、第1位のバイデン氏をはじめ、ここで挙げられた「リスク」は事態が好転すると「チャンス」にも変わり得るもの。
悲観的になり過ぎず、かといって楽観にも傾き過ぎないスタンスで世界のリスク要因を見ることが、冷静な投資判断には役立ちます。