現在の株式市場は空前のバブル状態。
米国では、業績が低迷するゲームストップ株にもロビンフッダーが殺到し、空売りを仕掛けたプロを打ち負かしたというニュースも流れています。
最初のビットコインバブルの時期でもそうでしたが、こんな状況になると取り上げられるのが「靴磨きの少年」。
彼は相場のバブルを象徴する都市伝説的な人物ですが、相場素人を揶揄するだけの存在にするには惜しいストーリーが隠されていました。
「靴磨き少年」の“定説”
多くの人が知っているのは、こんな話だと思います。
男が路上で少年に靴を磨いてもらっていると、その少年が言った。
「おじさん、株は買った? すごい儲かるんだよ!」
男は投資家だった。
年端もいかない少年が株の話をするなんて、もはや相場はピークに達している。
そう思った男が持っている株を全て売り払うと、ほどなく株価は暴落。
これが世界恐慌の始まりだった――。
この話は、投資や経済のことを知らない人まで相場に参入したときがバブルの頂点という教訓を示しています。固有名詞が一切出てこないので、まさに伝説といった感じです。
実はサクセスストーリーの1コマ
「男」はジョセフ・P・ケネディという人物。
ラストネームでお分かりかと思いますが、あのケネディ家の一員で、それどころかJFKのお父様です。
そう、靴磨きの少年の話は、JFKならぬJPKが相場で巨万の富を手にしたときのエピソードだったのです。
しかも「伝説」では、男が持ち株を売り払って難を逃れたというところで終わっていますが、JPKはガチの相場師だった模様。
持ち株を売却するどころか、空売りまで仕掛けて成功させています。
話は「男」の正体だけにとどまりません。靴磨きの少年の名前も分かっています。
彼はパトリック・ボローニャというイタリアの青年で、『Wall Street Wars』という本では22歳と書かれています。
これだけでも随分イメージと違いますが、ボローニャ青年はウォール街のちょっとした有名人で、靴磨きをしながら投資のウンチクを話すことで知られていたそうです。
JPKとのやりとりも全くイメージとは違います。
「ヒンデンブルグの株が良い」と言ったとか、試しに推奨銘柄を書かせてみると驚くほど正確な予測をしてみせたとか諸説ありますが、いずれにしても冒頭のような無邪気な会話ではありません。
相場のピークを感じ取った理由というのも、「バカも株を買う時代になった」的な上から目線なものではありません。ウォール街を根城にした人物とはいえ、靴磨きの少年にまで上昇相場の旨みが知られてしまった以上、もはや新しい買い手は出てこないだろうという洞察からです。
JPKの日本語版Wikiでは、靴磨きの少年の話は作り話とされています。
けれど、ここまで話が具体的になってくると完全なフィクションとも言えなくなってきます。
大恐慌で一文無しに・・・。その後は一念発起!?
これだけ具体的に名前も分かってくると、「靴磨き少年」ことボローニャ青年のその後が気になってきます。
20年以上前のForbesに、手がかりとなる記事を発見しました。
JPKの慧眼の通り、アメリカの株式市場はバブル崩壊を迎えました。
無邪気にウンチクを語っていただけあって、ボローニャ青年もなけなしの貯金をはたいて株を買っていたようです。
時は1929年、空前の株高から大恐慌への直滑降。
虎の子を出して手に入れた株が助かるはずもなく、青年は一文無しの状態に転落してしまいます。
それでも彼は、華のウォール街で百戦錬磨のトレーダーたちを相手にしてきた靴磨き職人。投機の世界からは足を洗い、生真面目に靴を磨き続けました。
やがて、ボローニャ青年は3人の子をもうけました。
2人の消息は不明ですが、1人はウィリアム・ボローニャ氏。Forbesの記事に登場する人物です。
ボローニャJr.はColumbia Laboratoriesという会社のCEOとして、「クレノン」という女性ホルモンのゲル剤を世に送り出す功績を挙げました。この製品は96カ国で承認され、日本でも不妊治療に使われるほどのヒットになりました。
このウィリアム・ボローニャ氏とパトリック・ボローニャ氏をつなげる手がかりはForbes記事以外にはありません。
けれども、できれば本当であってほしいストーリーです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
都市伝説の「靴磨き少年」は、相場の最後に飛び込むだけの愚か者ではありません。失敗しても実直さを忘れず、子どもを立派に育て上げた“五分の魂”を持った人物だったのです。
ちょっと良い話になりましたが、信じるか信じないかはあなた次第です。