Web3

「web3」は、たった1つの単語で説明できる

昨今、日本政府は国を挙げて「Web3」を推進しようとしたり、NTTドコモは6,000億円もの投資を決めています。

日本は過去20年あまりIT分野で世界に遅れをとり続けてきた反省から、今度こそ時代の波に乗ろうという気概が伝わってきます。
でも、そもそも「web3」って何でしょうか。

ビットコイン?
NFT(非代替性トークン)?
メタバース?

イーロン・マスク氏は「誰かWeb3を見たことあるか? 僕は見つからない」と言っています。

それもそのはず。
Web3とは、今後のWeb世界のあるべき姿を示したコンセプトであり、例えばメタバースなどは直接関係がなかったりします。

そこで今回は、「Web3」なるものの本質について、Web1.0時代からの構造変化とともに見ていきたいと思います。

はじめに:「Web3」「Web3.0」の使い分け

本題に入る前に。
当ブログにおける「Web3」という用語は、基本的にはイーサリアム共同設立者ギャビン・ウッド氏が創設したWeb3 Foundationの主張するコンセプトに準拠しています。

何故こんな注釈を入れなければいけないかと言うと、Web3のコンセプトが登場する以前に、World Wide Webの考案者であるティム・バーナーズ=リー氏が提唱した「Web3.0」という考え方が存在していたからです。
Web3.0とは、「セマンティックWeb(情報の「意味」をコンピュータが理解し、人の解釈なく自律的な処理が可能になったWeb)」を基盤とした次世代Webのコンセプト。
この2つは基盤となるテクノロジーに大きな違いがある一方、目指すべきWebのありようには共通点もあるため、しばしば混同して使われています。
当のバーナーズ=リー氏も「名前をイーサリアムの面々に取られた」と憤慨している様子です。

日本でも「Web3」と「Web3.0」が一緒くたに使われている現状があり、デジタル庁が開催している次世代Webに関する会議体は「Web3.0研究会」。ここで話し合われている内容はまさに「Web3」のコンセプトと関連テクノロジーそのものです。

簡単に状況を整理すると、以下のような感じです。

「Web1.0」「Web2.0」と来て、正統進化形の「Web3.0」が普及する前に「Web3」ムーブメントが来たため、連続性のありそうな「Web3.0」が「Web3」の説明にも使われるようになったというわけです。

前置きにしては長くなりました。ようやく本題です。

Web1.0:古き良き一方向の時代(1990年代半ば~2000年代前半)

個人や企業はテキストベースの情報をホームページにアップし、ユーザー体験は基本的に静的なサイトを受け身で「読む」時代。
阿部寛さんのHPを見れば、当時の雰囲気はだいたい分かっていただけるかと思います。

2000年前後には「2ちゃんねる」など双方向的なサービスが出てきましたが、懐かしの「テレホタイム」をはじめインターネット接続の部分でも限界があり、生活にネットが浸透していくとは考えにくい状況でした。

Web2.0:双方向の時代(2000年代半ば~現在)

Web2.0はSNSに代表される双方向型のインターネットが実現した時代です。
「いま」の出来事なので特別な説明は不要ですが、通信環境やデバイスのスペック向上といったインフラの発展もあり、動画コンテンツもストレスなく閲覧・投稿できる環境になりました。

Web2.0時代の弊害-プラットフォーム企業による中央集権化

人との連絡はアプリ1つで完結し、同じ興味・関心を持つ人や憧れの人ともつながることができる。

一見すると理想的なWeb2.0の世界ですが、ひとつ大きな課題が出てきました。
それがGoogleやAmazon、Facebookといったプラットフォーム企業の独占です。

先ほどの人と人のコミュニケーションも、その背後にはプラットフォーム企業の管理があって初めて成立するものです。

Web上のデータは全て巨大プラットフォーム企業に収集され、行動は全て把握されます。
多数のユーザーから集積したビッグデータは、ターゲティング広告をはじめとした企業の収入源になり、ユーザーに残るのは基本的には「いいね」だけです。

巨大プラットフォーム企業はユーザーアカウントの生殺与奪の権を握っており、(本人にも問題ありましたが)米大統領経験者といえども瞬時にコミュニケーションの機会を奪うことができます。

また、企業が収集したデータが特定のサーバーに集約される点でも課題があります。
現在では、サーバー攻撃により膨大な個人情報が流出したというニュースは日常的になり、データを管理する企業の倒産やサービス終了といったリスクも存在しています。

このように、Web2.0世界の到来はユーザーに多大な恩恵をもたらした一方で、プラットフォーム企業に国をも超えるような富と権力を与える「中央集権化」を招きました。

「どうせ変えられないし、別にそのままで良い」と思いますか?

Web3:「非中央集権」の時代(202X年~?)

ようやく核心です。

Web3のムーブメントは、Webの「非中央集権化(decentralization)」を目的にしています。

情報や資産のやりとりに特定の管理者は存在せず、データの所有権はユーザーのもの。
データを分散化して管理すれば、従来のように1つの企業にプライバシーを握られず、収益化の道具にされることもなく、かつデータ改ざんなどのセキュリティリスクは少なくなる、etc…。
というのがWeb3推進派の主張です。

ブロックチェーンは、そんなWeb世界を実現するための基盤になるテクノロジーです。
これによってWeb上のデータ管理は分散化され、特定企業が介在する余地はなくなるというわけです。
革命のために立ち上がった民衆が手にする武器のようなものですね。

Web3のエッセンスは基本これだけ。
Web版の自由民権運動のようなものです。

暗号資産の位置付け

ビットコインがWeb3のコンセプト登場前から存在していたため話はやや複雑ですが、暗号資産は「Web3プロジェクトに参加するインセンティブ」にあたります。
プラットフォーム企業の独占にチャレンジするからには見返りも重要ということです。

(2022年12月20日更新)

当ブログでは最も定着している「仮想通貨」という言葉を使っていましたが、Web3における位置付けを考えるときにはやはり「暗号資産」の用語の方が適切と判断して呼称を変更することにしました。

ビットコインはWeb3を代表する暗号資産ですが、これはあくまでもWebで流通する「通貨」の非中央集権化を目指すものです。
サトシ・ナカモト氏が「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」を発表したのは2008年。
Web2.0の弊害が顕在化する前の話ですから、Web3がターゲットにしているプラットフォーム企業はまだ中央集権的な存在ではありませんでした。
当時はリーマンショックで金融システムが揺らいでいた時期でもあり、ビットコインは既存の金融機関への不信感を背景にして注目を集めました。

上の写真は、ビットコイン最初のブロックである「ジェネシス・ブロック」です。
ここに残されたメッセージ(英国による銀行救済措置に関して報道したタイムズ紙の見出し)は、従来の中央集権的な金融システムからの脱却を宣言したものと解釈され、ビットコインは格差是正を求める人々の熱狂的な指示を集めたわけです。

しかし2008年の文献を読んでみると、開発の背景は「電子決済は金融機関が仲介しているから、コストはかかるし気軽に決済しにくいよね」程度にとどまっています。
もしかしたら「作ってみた」位のノリだったのかもしれませんが、未だにサトシ・ナカモト氏の正体は不明。
当然ながらはジェネシス・ブロックに残したメッセージの真意も闇の中です。

NFT、メタバースの位置付け

NFTは暗号資産と似た存在ですが、ビットコインの場合はどのBTCを持っていても同じビットコインである一方、例えば「NFT #0001」とナンバリングされたアートNFTは世界に1つしか存在しないのが特徴です。

この特徴から、NFTはクリエイターが生み出したデジタルコンテンツの所有権(著作権ではありません)を明確にして、これまで手にしていた間接的な報酬(PVに伴う広告収入や「いいね」)を、より直接的かつ中抜きのないものに変えられる可能性を秘めています。
また、最近では会員券的なNFTも増えてきたりと、変な猿の絵を眺める以外の用途にも使われるようになってきました。

つまり、NFTはWeb3ムーブメントにおけるコンテンツ流通のあり方を具現化した意味において注目に値する存在といえます(昨年のバブルはやりすぎですが)。

ちなみにメタバースはWeb3とは直接関係ありません。
NFTコンテンツをメタバース空間で売買したり・・・といったケースは想定されるものの、Web3の本質である「非中央集権化」の要素は特になし。
Facebookという巨大プラットフォームを展開しているメタ社が肝入りという点だけでも、メタバースがWeb3の理念を反映したものではないことが分かるかと思います。
シンプルに、Web3になじみやすい空間と理解するのが良さそうです。

Web3への投資手段は?

Web2.0までの時代は、有望な事業を展開している企業の株を買うというのがシンプルな投資手段でしたが、Web3関連では少し様相が変わってきます。

現在最もポピュラーな手段は、暗号資産の売買です。
FTXショックによって暗号資産取引所に資金を預けることへの不安感は出ていますが、これはあくまでも従来型企業のありえない不祥事。
「暗号資産やWeb3はもう終わり」ということにはなりません。

もちろん、FTXショックを契機にベンチャーキャピタルの投資が引き上げられ、有望プロジェクトの開発が数年遅れるという懸念はあります。
しかし、筆者は「暗号資産バブル」が終了したことで、今後の取引環境はむしろ健全になるのではないかと期待しています。

つまり、これまでの一攫千金的な投機手法ではなく、1つ1つのWeb3プロジェクトを吟味し、数年~10年単位先を見た取引をする人が増えると見ているのです。
特に、暗号資産を預けておくことで利息が生まれる「ステーキング」は株式における配当に近しい仕組みであり、長期保有のインセンティブにもなっています。

もう1つは自身がコンテンツを作成して収益化する方法。
現状はコンテンツを作る以外にも覚えることが多いため手間がかかりますが、今後はよりクリエイターフレンドリーなプラットフォームが登場することでしょう。

一番入り込みやすいジャンルは「x to earn」。
既に「ゲームして稼ぐ」「歩いて稼ぐ」プロジェクトがブームになりましたが、これに続くジャンルも出てくることでしょう。
投資というよりは「ポイ活」に近い存在ですが、Web2.0とは違って分散化されたプロジェクトのため、運営コストを安く抑えられるのがメリット。ユーザーに還元される収益はポイ活よりも多くなることが期待されます。

ブロックチェーンの分散性に貢献して報酬を得る「ノードを建てる」という方法も選択肢になりますが、ここでは項目を挙げるにとどめます。

以上の投資手段は暗号資産が介在したものなので、取引所の口座を開いたり暗号資産ウォレットを作成する必要が出てきます。
これらに抵抗があるけれどWeb3に投資したい場合は、Web3関連企業の株を買うという選択肢もあります。

おわりに

どうにもボンヤリしていて、胡散臭い感も漂う「Web3」という言葉。

ルーツをたどれば意外にシンプルだったことがお分かりいただけたかと思います。

これまで何となくスルーしていた人も、新しい投資ジャンルとして興味を持っていただければ幸いです。